2010年ハイチ地震(M7.0),2021年ハイチ地震(M7.2)は長大断層の破壊進展過程を示しているのか.

甚大な被害をもたらした2010年のマグニチュード(M)7.0のハイチ地震は2021年8月14日のM7.2地震を促進した可能性が高い.今後も時間差を置いて同様の大地震が2つの震源の西側で起きやすい状況が続くと考えられる.一方で,首都ポルトープランスを含む東側にも伝播した歪みは残っており予断を許さない.
 

By ロス・スタイン(テンブラー社),遠田晋次(東北大学災害科学国際研究所), ジン・リン(南方科技術大学,ウッズホール海洋研究所), ボルカン・セビルゲン(テンブラー社)
 

Citation: Stein, R.S., Toda, S., Lin, J., Sevilgen, V., 2021, Are the 2021 and 2010 Haiti earthquakes part of a progressive sequence?, Temblor, http://doi.org/10.32858/temblor.197
 

This article is also available in English, French, Chinese and Spanish.
 

2010年1月12日M7.0の地震がハイチの首都ポルトープランス郊外のレオガン市を直撃した.この地震によって30万人以上が死亡し,ハイチ政府によると数十万人が家を失った.当初,カリビアンプレートとゴナーブマイクロプレートを境するエンリキロープランテインガーデン断層(Enriquillo-Plantain Garden Fault,以降エンリキロ断層)が震源と考えられた.しかし,その後の調査研究により,同断層に並走する伏在逆断層であるレオガン断層(Léogâne Fault)による地震だとわかった(伏在逆断層とは,地震を発生させる活断層の一種ではあるがズレが地表まで達しない断層).2021年8月14日には同じ断層帯の2010年震源の西側でM7.2の浅部地殻内地震が発生した.地震による死者は1,400名を上回り,数千名以上が家を失った.これらの犠牲者数は今後上昇すると思われる.特に,これから襲来する熱帯低気圧が被害を悪化させる恐れがある.

以下,本稿では甚大な被害をもたらした2010年ハイチ地震が2021年地震を促進させた可能性について触れる.
 

2010年地震による2021年地震への応力伝播

我々の研究グループは,2010年1月12日のハイチ地震による応力伝播モデルとその後の地震活動に関する考察を同地震の2週間後に公表した(Lin et al., 2010).その報告で,2020年地震によってエンリキロ断層沿いの震源断層の東西隣接地域に顕著な歪み(応力)が加わったことを示した(図1).いまこの論文を見返すと,2021年地震の震源には約0.1barの応力が加わっている.0.1bar(10kPa)というと大気圧の約1/10で,大した変化ではないと思われるが,この程度でも地震活動を有意に変化させることが既往研究からわかっている. 2010年断層のごく近傍では,この5-10倍もの応力も加わっている.我々の報告とは別に,より詳細な研究・解析結果が3年後に発表されたが(Symithe et al., 2013),ほぼ同様の結果が確認されている.
 

図1. Lin et al (2010)のFig.1に2021年8月14日ハイチ地震の震央を追記.同地震はエンリキロ断層上で発生した.
図1. Lin et al (2010)のFig.1に2021年8月14日ハイチ地震の震央を追記.同地震はエンリキロ断層上で発生した.

 

「エンリキロ断層帯上の隣接する断層どうしが11年の間隔を置いて連動した」とするには些か単純すぎるかもしれない.というのも,2010年地震を引き起こした断層は,鉛直傾斜・左横ずれのエンリキロ断層そのものではなく, 北に傾斜する伏在逆断層(地表で確認できない断層)によって発生したという見方もあるからだ(Calais et al., 2010, Hayes et al, 2010, Prentice et al., 2010, Hashimoto et al., 2012, Douilly et al., 2013).実際,2010年地震後のエンリキロ断層沿いの調査では,地表での断層のズレは見つかっていない(Prentice et al., 2010). ただ,伏在逆断層を仮定しても2010年地震が2021年地震の震源に歪みを加えたとする結果は変わらないようだ(Symithe at al., 2013).

では,どうして2010年と2021年の断層の動きは同時に起きず,11年もの遅延が生じたのか.その理由として,図2にあるように,2つの震源断層境界部(図2の’jump?’の部分)の強度が高く2010年破壊進展を妨げた(バリアになった),もしくはこの部分が最近地震を起こしていて応力蓄積が不十分だった,直線ではなく断層屈曲や不連続部が破壊進展を妨げた(Saint Fleur et al., 2020)などの解釈ができる.いずれにしても,このような解釈に関係なく,境界部で今後M6.5程度の余震が発生する可能性はある.
 

図2. エンリキロ断層沿いで西へ進展する2010年,2021年地震.両地震の震源断層の間には10 km程度のギャップ(未破壊区間)があるようにみえる.
図2. エンリキロ断層沿いで西へ進展する2010年,2021年地震.両地震の震源断層の間には10 km程度のギャップ(未破壊区間)があるようにみえる.

 

2021年8月14日ハイチ地震による応力変化

今回のM7.2の地震ではどのような応力変化があったのだろうか.M7.2は2010年のM7.0の約2倍の大きさだ.図3にその計算結果を示す.パネル毎に計算の設定が異なるが,いずれの場合も,2021年地震が東西近傍の断層運動を促すことには変わりがない(図3aが分かり易い).2010年地震の震源断層は再度応力が増加し,首都ポルトープランスの西側の2010年余震域を刺激するかもしれない.
 

図 3. 2021年8月14日M7.2ハイチ地震による周辺断層への応力変化.(a)2021年地震と同様の断層(北傾斜,左横ずれと逆断層運動)が周辺に分布すると仮定した場合.2021年震源断層は米国地質調査所のモデルを使用.暖色系は断層運動の促進を意味し.寒色系は断層運動の抑制を示す.(b)周辺地域で発生した過去の断層メカニズム解(ビーチボール)に対して計算したもの.2010年の本震と余震域は赤色のビーチボールとなっており,再び載荷されたことがわかる.(c)(b)この地域のメカニズム解情報が少ないので全世界のデータで内挿したメカニズム解に対して計算したもの.
図 3. 2021年8月14日M7.2ハイチ地震による周辺断層への応力変化.(a)2021年地震と同様の断層(北傾斜,左横ずれと逆断層運動)が周辺に分布すると仮定した場合.2021年震源断層は米国地質調査所のモデルを使用.暖色系は断層運動の促進を意味し.寒色系は断層運動の抑制を示す.(b)周辺地域で発生した過去の断層メカニズム解(ビーチボール)に対して計算したもの.2010年の本震と余震域は赤色のビーチボールとなっており,再び載荷されたことがわかる.(c)(b)この地域のメカニズム解情報が少ないので全世界のデータで内挿したメカニズム解に対して計算したもの.

 

2021年ハイチ地震は1770年に起こった大地震の再来か

Saint Fleur et al. (2020) は図2に示されるClonardの町で断層掘削調査を行い,(40年程度の不確実さはあるが)西暦1770年地震時(M7.5)に断層が活動した証拠を突き止めた.この地点は2021年地震の震源断層の真上にあたる.エンリキロ断層は長期の横ずれ変位レートが約9mm/年なので,1770年と2021年の約250年間に蓄積されたズレは2.0-2.5 m程度に達するとみられる.米国地質調査所による震源断層モデルでは,2021年地震の平均ズレ量は1.5mで,両者はほぼ整合する.つまり,1770年に解消された歪みは2010年までに蓄積され,2010年ハイチ地震によってさらに載荷され,11年後に動いたとみることができる(遅延がなぜ11年かはわからない).
 

今後1年間の地震発生予測

図4は2つのハイチ地震による応力伝播を考慮した地震確率マップである.図3cの計算結果と全世界地震発生率マップ(GEAR, Bird et al., 2015)などが組み合わされたもの(手法の詳細はToda and Stein (2020)を参照).大地震による地震活動への影響は,周辺断層の分布や形態に依存し,その地震活動は時間とともに減衰するという仮定がある.残念ながら,ハイチは,日本や米カリフォルニア州,チリのような国を網羅する地震観測網がないので,緻密なモデルを構築できないだけではなく,詳細な検証も難しい.

東は首都ポルトープランスから西はホッテ中央山塊まで地震発生確率の上昇が予測される.
 

図 4. 今後1年間の確率論的地震発生予測.(a)2010年地震,2021年地震の影響を考慮したもの.手法はToda and Stein (2020)に従う.2021年の震源断層の40km区間を除いて,エンリキロ断層沿い約220kmにわたってM5以上の地震発生確率が上昇する.2つの地震を考慮しない場合(b)と比較すると,確率上昇の度合いと分布が明らかである.なお,断層モデルの精度から本手法では震源断層そのもので発生する余震については予測不能であり(そのために2021年震央付近は真っ白),実際のM5以上の地震のほとんどは2021年断層上で発生する.ただし,今後の被害地震を予測するという意味では,震源断層の周辺の確率上昇が重要となる.
図 4. 今後1年間の確率論的地震発生予測.(a)2010年地震,2021年地震の影響を考慮したもの.手法はToda and Stein (2020)に従う.2021年の震源断層の40km区間を除いて,エンリキロ断層沿い約220kmにわたってM5以上の地震発生確率が上昇する.2つの地震を考慮しない場合(b)と比較すると,確率上昇の度合いと分布が明らかである.なお,断層モデルの精度から本手法では震源断層そのもので発生する余震については予測不能であり(そのために2021年震央付近は真っ白),実際のM5以上の地震のほとんどは2021年断層上で発生する.ただし,今後の被害地震を予測するという意味では,震源断層の周辺の確率上昇が重要となる.

 

「ドミノ倒し」的連鎖は西へ進展するか?

2つの地震をみると,M7地震はドミノ倒しのようにこのまま西に連鎖していくと考えがちだ.ハイチ南半島西側の少人口域で近い将来大地震が起こると考えてしまう.約10kmのギャップを隔てて2010年震源と2021年震源があること,2010年の余震は西側で活発で2021年震央付近まで拡大していたことに基づく.

しかし,今回の計算結果に基づくと,大地震の発生確率上昇は両地震断層の東側も同様に上昇している.2010年から11年経ってもポルトープランス側で更なる大地震は発生していなので,可能性を除外できるという意見もあるかもしれない.しかし,約10個のM4.5以上の余震が東側にも発生しており,首都近傍での大地震の可能性は低くはない.
 

文献

Bird, P., D.D. Jackson, Y.Y. Kagan, C. Kreemer, and R.S. Stein (2015), GEAR1: A global earthquake activity rate model constructed from geodetic strain rates and smoothed seismicity, Bull. Seismol. Soc. Amer., 105, 2538–2554.

Calais, E., A. Freed, G. Mattioli, F. Amelung, S. Jónsson, P. Jansma, S.-H. Hong, T. Dixon, C. Prépetit, and R. Momplaisir (2010), Transpressional rupture of an unmapped fault during the 2010 Haiti earthquake. Nature Geosci., 3, 794-799, doi:10.1038/ngeo992.

Douilly, R., et al. (2013), Crustal structure and fault geometry of the 2010 Haiti earthquake from temporary seismometer deployments, Bull. Seismol. Soc. Am., 103, 2305–2325, doi: 10.1785/0120120303.

Hashimoto, M., Y. Fukushima, and Y. Fukahata (2011), Fan-delta uplift and mountain subsidence during the Haiti 2010 earthquake, Nature Geosci., 4, 255–259, doi:10.1038/ngeo1115.

Hayes, G. P., R. W. Briggs, A. Sladen, E. J. Fielding, C. Prentice, K. Hudnut, P. Mann, F. W. Taylor, A. J. Crone, R. Gold, T. Ito, and M. Simons (2010), Complex rupture during the 12 January 2010 Haiti earthquake, Nature Geosci., 3, 800–805, doi:10.1038/ngeo977.

Lin, J., Stein, R. S., Sevilgen, V., and Toda, S. (2010), USGS-WHOI-DPRI Coulomb stress-transfer model for the January 12, 2010, MW=7.0 Haiti earthquake: U.S. Geological Survey Open-File Report 2010-1019, 7 p.

Mann, P., E. Calais, J.-C. Ruegg, C. DeMets, P. E. Jansma, and G. S. Mattioli (2002), Oblique collision in the northeastern Caribbean from GPS measurements and geological observations, Tectonics, 21, 1057, doi:10.1029/2001TC001304.

Prentice, C. S., P. Mann, A. J. Crone, R. D. Gold, K. W. Hudnut, R. W. Briggs, R. D. Koehler, and P. Jean (2010), Seismic hazard of the Enriquillo Plantain Garden fault in Haiti inferred from palaeoseismology, Nature Geosci., 3, 789-793, doi:10.1038/ngeo991.

Saint Fleur, N., Y. Klinger, N. Feuillet (2020), Detailed map, displacement, paleoseismology, and segmentation of the Enriquillo-Plantain Garden Fault in Haiti, Tectonophysics, 778, 228368.

Symithe, S. J., E. Calais, J. S. Haase, A. M. Freed, and R. Douilly (2013), Coseismic slip distribution of the 2010 M 7.0 Haiti earthquake and resulting stress changes on regional faults, Bull. Seismol. Soc. Am., 103, 2326–2343.

Toda, S., and Stein, R. S. (2020), Long‐ and short‐term stress interaction of the 2019 Ridgecrest sequence and Coulomb‐based earthquake forecasts. Bull. Seismol. Soc. Amer. 110, 1765-1780.

USGS (2021), Finite Fault model for 14 August 2021 M 7.2 Nippes, Haiti, Earthquake
https://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eventpage/us6000f65h/finite-fault