M7地震の関連性をみると, 3月の地震が5月の地震を誘発した可能性は高いが,最初の2月の地震が3月の地震を促した明確な証拠はない.
遠田晋次(東北大学災害科学国際研究所)
スタイン ロス(Ross S. Stein,Temblor社)
Citation: Toda, S., Stein, R., 2021, Recent large Japan quakes are aftershocks of the 2011 Tohoku Earthquake, Temblor, http://doi.org/10.32858/temblor.175
本年2月〜5月に宮城県沖から福島県沖にかけて3つのM7級の地震が発生した.2月13日には福島県沖でM7.3(深さ55km,蔵王町,国見町などで最大震度6強),3月20日には宮城県沖でM6.9(深さ59km,最大震度5強),5月1日には同じく宮城県沖でM6.8(深さ51km,最大震度5強)の地震が発生(図1). これら3つの大地震は100 km以内に,わずか76日間という短期間で発生した.いずれの震源にも近い仙台市では,短期間に複数回の強い揺れに見舞われるのは,10年前の大震災以来である(この時は,M9本震とその直後の余震).
なぜ宮城県―福島県沖? なぜ今頃?
東日本の地震発生場は,平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震によって劇的に変化した.10年経った今,その活動はやや衰えたとはいえ,まだ311前に戻っていない(図2).311の震央の東と西,すなわち岩手県,宮城県,福島県,栃木県,千葉県沿岸と,逆にはるか沖合の日本海溝周辺では311前に比べて地震発生レート(地震発生ペース)が高い状態が続いている(図2の左と右のパネルを比較).
311にともなう地震発生レートの増加は3つの震源付近でも顕著である.図3には,各地点での2000年以降のM3以上の地震を積算曲線として示した.対象としたのは震源から半径15km,上下15kmの範囲の地震である.この範囲は,おおよそM7の断層の大きさに匹敵する体積にあたる.この図では傾きが地震活動の発生ペース,活発さの度合いを示している.311直後にすべての地点で地震発生レートが10倍以上に跳ね上がり,その後は余震の「大森則」にしたがって減衰するも,いまだに3倍以上のレートを維持している.小地震と大地震の発生比に変化がないとすると,M7地震も311前に比べて3倍起きやすい状況が続いているといえる.
東北沖地震が周辺の断層活動を促進し,地震活動が広域で活発化することは以前に指摘した(Toda et al., 2011).つまり,M9の超巨大地震によって周辺断層に応力が伝播したことによる.具体的にはクーロン応力(Coulomb stress)といわれるものである.周辺断層への法線応力が増加する(断層を押さえつける圧力が下がる),もしくは剪断応力が増加する(断層をずらそうとする圧力が上がる)とクーロン応力変化が増加し,地震が起こりやすくなる.逆の場合は,地震活動を抑制する.クーロン応力変化によって大地震後の広域の余震活動や大地震の続発が説明できることが多くの研究からわかっている(例えば,Harris, 1998,Stein, 1999).
では,3つの地震間ではどのような影響があったのであろうか.まず,最初の2月13日の地震によって3月と5月の震源域で地震活動がどう反応したのか.図4をみると,予想に反して両地点の活動に何ら変化はみられない(図4の青線).一方で, 5月の震源域では3月20日の地震直後3日間にわたって活発化が認められ,その後通常の活動に戻っている(図4の黒線).
つまり,5月1日地震の震源域では,3月20日の地震によって一時的に地震活動が活発化した.これは, 0.25 barのクーロン応力増加という計算結果(図5)と整合する.一方で,2月地震による5月震源での0.3 barの増加,3月震源での0.05 barというわずかな応力増に,地震活動は反応していない.
図5には,そのクーロン応力変化の計算結果を示した.ビーチボールは過去の地震のメカニズム解(断層の姿勢とすべりの向き),すなわち各所に潜む代表的な断層を示し,色が応力変化量を表す.暖色系のビーチボールが多い地点は地震活動の活発化が予想される地域,寒色系が多い地域は地震活動の静穏化が期待される地域を示す.上段は2月の地震,中段は3月の地震,下段は5月の地震による応力変化を示す.
続発地震からわかること,そして今後は
続発した3つのM7地震は基本的に平成23年(2011年)の東北地方太平洋沖地震の余震といえる.この311の余震活動は直ぐに終わりそうもなく今後も長く続く.そのため,大きな地震(余震)が起こりやすい状況はしばらく続くだろう.
一方で,この約80日間に起こったことは少々異常である.図2の範囲でM6.8以上の地震は1923年〜311までに年平均0.58個,311以降は年平均2.0個起きている.76日間に3個というのは,通常(前者)の25倍,311以降を考えても7倍のペースとみることもできる.
では,3つの地震は連鎖反応的に発生したものだろうか.2月の地震による3月の震源付近には検出できるほどの活発化はみられなかった.つまり,3月の地震は311による影響はあるものの,偶然発生したとみることもできる.地震活動を励起するには応力変化量が小さすぎたのかもしれない.もしくは,小さな地震の検出には限界があるため,異常があっても検出されていない可能性もある.別の可能性として,3月,5月の震源域では断層が地震を起こさずズルズルすべる(非地震性すべり)部分が卓越し,2月の応力変化に地震活動として反応しなかったのかもしれない.一方で,5月の震源域では3月の地震による微小地震の増加が認められた.誘発作用は少なからずあったと考えられる.
図5の下段(5月の地震による応力変化)には,赤いビーチボールが依然多くみられる.特に震源の北東に多い.5月の地震はM6.8とやや小さいが,周辺域には何らかの影響が残ることが考えられる.この一連の活動が直ぐに収まるとは考えにくい.
謝辞:地震活動の解析には気象庁一元化震源カタログ(一部暫定震源を含む),応力計算に用いたメカニズム解については防災科学技術研究所のF-netデータベースを使用させていただいた.なお,モーメントマグニチュードを用いた英語版と異なり,本稿では気象庁マグニチュードを用いた.
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