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熊本地震: M6地震がM7地震を誘発し,その後周辺の活断層にも影響が

ロススタイン(Temblor),遠田晋次(東北大学災害科学国際研究所)

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熊本での地震続発を報告してから4ヵ月が経過しました.本年4月14日に発生した最初のM6.5地震から28時間後の16日には,同じ断層帯でM7.3地震が発生しました.この地震で,熊本市,益城町,西原村,南阿蘇村など,日奈久断層帯,布田川断層帯に沿った地域で甚大な被害がもたらされました.以下では,これまで得られたいくつかの知見を紹介します.

このような脆弱な一階スペースは世界共通の問題です.細長い支柱に支えられ,駐車場や店舗スペースにしている場合が多く見られます.水平の強い揺れに対して,適切な筋交いや耐震壁・耐震パネルが必要です.幸運にも,このアパートでは誰も犠牲者が出ませんでしたが,誰も車で逃げることができませんでした.もし,このような建物の1階に住むか働いていたならば,とにかく逃げるのが得策です.

 

ここには阿蘇大橋という橋がかかっていました.熊本地震で,写真に見られるような大規模な斜面崩壊が発生し,橋を飲み込みました.このような事態を想定して, Temblorではオプションレーヤーとして地すべり危険度図を用意しています.誰も将来このような事態が予想されている場所に住みたいとは思わないでしょう.地すべりだけではなく,阿蘇カルデラ内では大規模な液状化や側方流動が発生しました.これにより家屋の傾動や基礎地盤の沈下がいたるところで認められました.

 

7地震を起こすのに十分な長さの断層です.震度7や6強の強い揺れは,この地震断層帯沿いに記録されました.また,揺れだけではなく,このような断層のズレによって断層をまたぐ構造物が少なからず被害を受けました.世界でも,日本,米国,ニュージーランド,トルコ,イタリア,ギリシャは精度の高い活断層図を公表しています.多くの地形・地質学者の努力によって作成された活断層図の重要性を理解していただけるものと思います.”/> きちんと整列した植樹や耕作地を地震断層が通ると,断層による横ずれが明瞭に確認できます.ここでは右横ずれを示しています.右横ずれとは,断層を挟んで手前側から向こう側をみると,向こう側の地盤が右に動く場合を言います.地震断層は事前に分布が示されていた布田川断層と日奈久断層北端部に約30kmにわたって出現しました.2つの活断層の実際の分布はさらに長いので,今回はそのすべてが動いたわけではありません.しかし,30kmというのはM>7地震を起こすのに十分な長さの断層です.震度7や6強の強い揺れは,この地震断層帯沿いに記録されました.また,揺れだけではなく,このような断層のズレによって断層をまたぐ構造物が少なからず被害を受けました.世界でも,日本,米国,ニュージーランド,トルコ,イタリア,ギリシャは精度の高い活断層図を公表しています.多くの地形・地質学者の努力によって作成された活断層図の重要性を理解していただけるものと思います.

 

4月16日熊本地震発生からの産業・経済に関する時系列です(AIR Worldwideによる.注:米国側からまとめられているので地震発生が15日となっています).もちろん熊本地震が日本経済や産業に与える影響は強烈でしたが,同時に自動車業界のサプライチェーンなど,世界経済へのインパクトも大きいものでした.多くの工場が数日〜数ヵ月の閉鎖を余儀なくされました.その結果,200億ドル以上もの経済損失が見積もられています.

 

4月14日M6.5地震の後に作成された計算結果です.同地震直後に,震源の北東の布田川断層帯,震源南西の日奈久断層帯に応力が伝播していたことが指摘されていました.残念ながら,両断層帯の一部がその28時間後にM7地震を起こす事態になりました.
左図は,4月14日M6.5地震から16日M7.3地震発生直前までの地震の分布.M7.3地震は顕著な余震域で発生した.M7.3地震の後で,余震域は北東と南西に拡大した(右図).

 

最初のM6.5地震では約10 kmにわたって余震が拡がりました.その後,この地震による北東—南西方向への誘発地震は28時間後のM7.3地震発生まで見られません.M7.3地震では約30 kmの震源が動き,その直接の余震だけではなく,北東側の大分周辺でもM5.7地震など多くの地震が誘発されました.熊本地震によって別府—万年山断層帯へ応力が伝播したためと考えられます.このことは余震分布図でも確認できます.この図で,それぞれの円の大きさはマグニチュードに比例します.4月20日公開の気象庁資料に加筆したものです.

 

熊本地震(4月14日と16日)による周辺地殻内へのクーロン応力の変化.応力増加域は暖色系,応力減少域は寒色系で示されます.熊本地震後3ヵ月間の地震(半透明の緑点)は応力増加域で多数発生しています.

 

熊本地震(4月14日と16日)による周辺活断層へのクーロン応力の変化.震源の南西に位置する日奈久断層帯と雲仙断層群に大きく応力が伝播したことが予想されます.震源から北東の別府—万年山断層帯と北西の佐賀平野北縁断層帯でも若干の応力増加となります.これらの断層帯とその周辺では,誘発されたと考えられる小規模な地震が増えました.応力増加域は暖色系,応力減少域は寒色系で示されます.熊本地震後3ヵ月間の地震(半透明の緑点)は応力増加域で多く発生しているようです.熊本市は震央(星印)の直ぐ西に位置します(+4.2と示されている位置).

一連の熊本地震からどのような知見を得るか

 日本のような強い経済に支えられ災害に強く回復力のある国でも,都市部におけるM7地震による影響はきわめて大きいことがわかります.地震による揺れや断層によるずれ,斜面崩壊によって多くの命が失われ,被害も甚大でした.

科学的に明白なことは,最初のM6.5地震によって,次のM7.3地震の震源にクーロン応力が加わり,それが大きな断層運動(地震)のきっかけになったことです.つまり,M7.3地震はM6.5地震のクーロン応力増加に起因する余震域から発生したことです.したがって,応力計算と対応する地震活動の解析は,将来の大地震を予測する上で強力なツールになります.ただし,このような予測は常に確率として示されることに注意が必要です.そもそもM6.5地震がM7.3地震を誘発する確率はそれほど高くはありません.しかし,M6.5が起こらなかった場合(通常の場合)よりもきわめて大きな確率となります.地震ハザード評価の向上のためにも,このような計算は迅速かつ体系的に実行されなければなりません.

Temblor ウェブアプリの新機能:全地球地震予測

先週,全地球地震活動レートモデル(GEAR)を新しくTemblor ウェブアプリに組み込みました.このモデルはBirdほか(2015)によって学術誌に公表され,ウェブアプリ上では,’Earthquake Forecast’としてマップレイヤーメニューに取り入れられています.GEARは地球上のどこでもマグニチュード6〜9の確率を表示します. GEARの計算は,GPS観測から得られた歪レートと過去40年間のM≥5.8地震のデータに基づきます.地図上での色表示は年間1%の確率で発生するマグニチュードです(年1%というのは,人生で60%の確率で経験することとほぼ同様).下図の熊本(青ピン)ではM=7の地震を一生に一度経験するということを示しています.一方で宮城県沖(2011年東北地方太平洋沖地震の震源域)では,M=8地震を同じく一生に一度くらいの確率で経験するという計算結果です.その点,M=9地震というのはきわめて希ということがわかります.その前のM=9クラスが西暦869年の貞観地震ではないかという説と整合します.全地球地震予測機能のiPhone, Androidへの実装は,皆さんからのフィードバックを受けてから行う予定です.

データの出典

東北大学災害科学国際研究所
気象庁
産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門
AIR Worldwide, http://www.air-worldwide.com/Publications/White-Papers/documents/Modeling-Supply-Chain-Disruptions-and-Contingent-Business-Interruption-Losses/
Bird, P., D. D. Jackson, Y. Y. Kagan, C. Kreemer, and R. S. Stein (2015), GEAR1: A Global Earthquake Activity Rate Model Constructed from Geodetic Strain Rates and Smoothed Seismicity, Bull. Seismol. Soc. Amer., 105, 2538–2554, doi: 10.1785/0120150058, http://geodesy.unr.edu/publications/bird_BSSA_2015.pdf