3月16日深夜に東北地方を襲い東京に停電をもたらしたマグニチュード7.3の地震は,2011年東北沖地震の余震活動の1つとみられる
遠田晋次(東北大学災害科学国際研究所)
ロス スタイン(テンブラー社)
Citation: Toda, S., Stein, R., 2022, ‘Triplet’ earthquakes strike near Tohoku, Japan, but a rupture gap remains, Temblor, http://doi.org/10.32858/temblor.246
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2022年3月16日に発生したマグニチュード(M)7.4の福島県沖の地震は,宮城県から福島県の太平洋沿岸地域に強いゆれをもたらした.建物やインフラの甚大な被害とともに,死者3名,負傷者180名の災害となった.東北新幹線は脱線し,乗客乗客78名が車内に閉じ込められた.約300 km以上離れた関東地方でも約12時間にわたる停電が発生した.この地震は,11年前に発生した東北地方太平洋沖地震(M9.0)以降に続発する大きな地震の1つだ.一連の地震活動は,東北沖地震によって変化した地殻内歪みの再調整の結果ともいえる.
双子地震
2022年福島県沖の地震は震源の深さが57kmで,沈み込む太平洋プレート内で発生した.前年2021年2月13日に発生した福島県沖の地震(M7.3)と震央がほぼ重なる.しかし,2022年地震は震源から断層の動きがはじまり,北方へ破壊が広がった.これとは対称的に2021年地震では南西へ断層のズレが進展した.一部重なる可能性はあるが,地震を引き起こした断層(震源断層)は基本的にそれぞれ違うものだ.2021年,2022年の2つの福島県沖の地震は,典型的な「双子地震(earthquake doublet)」で,これまでに世界中で多くの事例が報告されている(Kagan and Jackson, 1999).短期間にほぼ同一地点で2つの大きな地震が発生する理由はケースバイケースであろう.多くの場合,最初の地震で断層に蓄積された歪みが解消しきれず,すぐに次の大地震を引き起こしたと説明される.
スラブ内地震
2021年,2022年双方の福島県沖の地震は,東北陸域直下に沈み込んだ海洋性プレート(太平洋プレート)内部の断層が引き起こしたものだ.このような地震をスラブ内地震(intraslab earthquake)という.これとは異なり,2011年(平成23年)東北地方太平洋沖地震(M90)は陸のプレートと太平洋プレートの境界が30m以上も大きくズレ動いたことによるプレート間の超巨大地震だった.スラブ内地震は,プレート間地震同様,世界中の沈み込み帯で起こっておりM8に達することもある.スラブ内地震のメカニズムは多様であるが,今回のような深さ数10km以浅のスラブ内地震の多くは沈み込みにともなう海洋プレートの曲げ変形や圧縮応力に起因し,プレート内の断層が反応して発生する.今回は,東北地方太平洋沖地震による大変動で深さ50-60kmの太平洋プレートに新たな圧縮力が加わり,スラブ内地震が発生しやすい状況にあったと考えられる.
三つ子の地震と未破壊域
さらに興味深いことに,今回のスラブ内地震は双子地震ではなく,三つ子地震という見方もできる.2011年東北地方太平洋沖地震の約1ヵ月後の4月7日に,2022年地震の約60km北,深さ約60kmの地点でM7.1のスラブ内地震が発生していた(Ohta et al., 2011,この地震も夜の11時台に発生).最近11年間で考えると,双子ではなく三つ子の地震といって良いだろう.それぞれ3つの震源断層をおおまかに図示すると,2011年と2022年の断層の間が少し空いている.スラブ内の断層分布は地下深く陸側プレートに覆われ全く摑みどころがないが,仮に何らかの断層構造が連続しているとすると,この部分が未破壊域(地震の空白域,seismic gap)という解釈もできる.
大地震発生にともなって,近傍に分布する断層に加わる剪断応力が増加する,もしくは断層を押さえ込む圧力(法線応力)が減少すると,断層の動きが促進される.この両方の成分を考慮したものをクーロン応力といい,大地震にともなう変化分をクーロン応力変化(ΔCFF,Coulomb Stress change)という.上の図は,上記三つ子のスラブ内地震によるクーロン応力変化を計算したもので,2011年と2022年の震源断層に挟まれる部分に大きな応力が加わっていることがわかる.また,2011年震源の北側でもスラブ内地震が生じやすい状況にある.
ただし,実際の断層は単純ではない.実際に地質学的に明らかになった断層像はもっと複雑で,長さや向きは多様で断層はネットワーク・網目状に分布する.また,複雑性はさまざまなスケールでみられ,いわゆるフラクタル的な分布を示す.この状況で,どのように自然の複雑性をモデルに取り入れることができるのだろうか.少なくとも我々が直ぐにできることは,過去の中地震以上(M≥4,防災科学技術研究所のF-netデータ)の断層タイプ(メカニズム解)とその分布をモデルに反映させることだ.これらのメカニズム解を地域的断層の代表として,福島県沖の地震の影響を計算してみた.
上の図はとても複雑だが,より現実的な応力変化を示す.ビーチボールは過去に起こった地震のメカニズム(横ずれ,逆断層,正断層などすべりの向きを表したもの)を示す.いろいろなパターンのビーチボールが分布するのがわかる.それぞれの色は,2021年と2022年の福島県沖の地震によって変化したクーロン応力を示す.暖色系は2022年地震によって動きが促進された断層,寒色系は動きが抑制された断層となる(Toda and Stein, 2021).2022年震源の北には赤いビーチボールが多数みられる.このことは,この地域で次に地震活動が活発化しやすいことを示唆している.先に示したスラブ内地震の可能性だけではなく,プレート境界型地震もこの牡鹿半島沖で発生しやすいということだ.2021年,2022年の震源断層の南東側にも赤いビーチボール(動きを促進された断層群)が多数ある.ここも今後地震活動が活発化する可能性が考えられる.ただし,幸運にも陸域からは距離があり,地震動は今回の地震ほど大きくはならないと思われる.
震度分布の比較,再現性
これら3つのスラブ内地震,規模はM7.2-7.4,すべて陸から約30kmの距離,深さ約60km,特徴が類似する.そのために,震度分布を互いに比較できる.気象庁が密に設置した震度計でこれらの詳細分布や再現性を検証可能だ.下の図は宮城県と福島県を中心に同じスケールで震度分布を並べてみたものだ.これらの3つの震度分布はおおむね似ている.ただし,震源断層の位置が南北に異なるため,詳細は異なる.例えば,2021年地震と2022年地震では後者の地震規模が約2倍であるため,全体的に震度がやや大きい.また,震源断層がより北側に分布するため,石巻など宮城県北部側で震度が大きくなっている.いずれにしても,これらのスラブ内地震がもっと浅く陸に近くなれば,震度や被害はさらに大きくなっていたと思われる.
なぜ地震が続発したのか?
2011年の東北沖地震以降,3つの類似の大地震が東北太平洋側沿岸域を襲った.これは確かに重大なことだが,驚くほどのことでもない.これらはすべて東北地方太平洋沖地震の広い意味での余震とみられるからだ(Toda and Stein, 2021).また,この広域余震活動は全体的には減衰しているとはいえ,今後同様の大きな地震が発生する可能性が高い.日本海溝から東側の地域も同様に東北沖地震以降地震活動が高い状態が続いている(アウターライズ地震).逆にこの2つの地域に挟まれた東北沖地震の大すべり域では地震活動が低調になっていて,逆に100年以上の長期にわたって静穏化する可能性もある.
文献
Y. Y. Kagan and D. D. Jackson (1999), Worldwide doublets of large shallow earthquakes, Bull. Seismol. Soc. Amer., 89, 1147-1155.
Yusaku Ohta, Satoshi Miura, Mako Ohzono, Saeko Kita, Takeshi Iinuma, Tomotsugu Demachi, Kenji Tachibana, Takashi Nakayama, Satoshi Hirahara, Syuichi Suzuki, Toshiya Sato, Naoki Uchida, Akira Hasegawa, and Norihito Umino (2011), Large intraslab earthquake (2011 April 7, M 7.1) after the 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake (M 9.0): Coseismic fault model based on the dense GPS network data, Earth Planets Space, 63, 1207–1211.
Toda, S., Stein, R.S. (2021), Recent large Japan quakes are aftershocks of the 2011 Tohoku Earthquake, Temblor, http://doi.org/10.32858/temblor.175